定食のススメ。孤食のススメ。温かいメシのススメ。

皆さんは「定食」がお好きでしょうか。定食とは汁物・ご飯・メインのおかず、小鉢、香の物で構成されたフルコースのことでございます。ただし、ランチやディナーなんぞとしゃれっ気のある名前で呼ばれるものではありません。あくまで定食です。

 

人によっては「親子丼や牛丼のような丼物を定食から外すべきではないか」と主張する方もいらっしゃいますが、メインのおかずがご飯の上にのっかっているというだけでも丼物は十分に定食の範疇です。この点で、私の定食論は『定食学入門』における定食の定義と同じと言ってもいいかもしれません。

 

定食学入門 (ちくま新書)

定食学入門 (ちくま新書)

 

 

ただし、たとえ丼物と言えど、やはり小鉢と汁物、香の物は欠かせません。それがあってこその定食です。この点に関しては、「ご飯とおかずと汁物があれば定食と言っていいのではないか」と主張される方もいるでしょうが、やはり香の物と小鉢(もしくはそれに代わるもの)は必須。

 

講談社の『日本語大辞典』によると、定食の対義語は一品料理なので、確かに“ご飯とおかずと汁物”の組み合わせでも、定食と呼べるのかもしれません。ですが、小鉢と香の物はお店の気遣いの心です。その心が現れたものにこそ、定食の名はふさわしいと思います。

 

そしてできれば、そこにちょこんと適当なサイズに切ったみかんやリンゴなどの果物が添えてあれば完璧。「果物にドレッシングがかかっていて不味い」「飯の最中に果物が食えるか」という言葉を聞いたことがありますが、彩りが無いメシほど寂しいものはありません。定食に余裕が無くなってはお終いです。

 

別にお客さんが果物を求めて食事をしているわけでもないのに、いつまでも続けるその姿勢にこそ定食の“粋”を私は感じます。最近言ったお店では、「小松」さんなどがまさにその典型。定食の中の定食です。

 

 

そして、定食と言えば和食と思っている方もいらっしゃるでしょうが、中華料理屋にだって定食は存在します。中華料理屋の定食は、ご飯、から揚げ、ラーメン、サラダ(または餃子)、香の物(またはキャベツの千切り)の組み合わせあたりでしょうか。ラーメン1つで汁物とメイン料理の二役を担う優れた組合せです。カロリーお化けを気にしてはいけません。

 

個人的に、今まで最も中華定食としての完成度が高かったと思うのは、姫路の「紅宝石」さんでしょうか。500円でクオリティの高い「大盛りご飯、から揚げ、ラーメン、ポテトサラダ、キャベツの千切りのセット」が食べられるお店はなかなかありません。

 

 

そんな定食ですが、実は私が住んでいる名古屋に「定食屋」や「大衆食堂」を名乗っているお店は大変少ないのです。大抵の場合はチェーン店の「大戸屋」なんかが良く利用されています。いや、決して大戸屋が悪いということはなく、あれも十分にクオリティとしてはレベルが高いのですけどね。やっぱり、“定食屋らしさ”に若干かけてしまいます。

 

もちろん、探せばあるもので、ちょこんちょこんと定食屋は各地に点在しているのですが、中々それを見かけることは少ない。

 

では、どうするか。名古屋で定食を食べたい人間はどうすればいいのでしょうか。その答えは喫茶店にありました。名古屋には、定食屋さんが少ないと思っておりましたが、その代りに昔ながらの喫茶店に腹いっぱい食べられる“定食”が存在したのです。

 

それに気づいて以来、私の定食ライフは再び充実するようになりました。ですが、そういったお店に通い詰めるようになってから、とある心配をするようになってきました。それは、定食屋における高齢化問題です。

 

日本全体が超高齢社会と呼ばれ、田舎では特に重要視されている高齢化問題ですが、なんと都会のまっただなかにも高齢化の波は押し寄せていたのです。これは店員さんだけの話ではありません。お客さんの年齢層の話でもあります。定食屋や古い喫茶店では、若い人をほとんど見かけないのです。

 

こういった背景もあってか、つい最近、私の家の近くの定食屋さんものれんを下ろしてしまいました。

 

「孤食でも孤独でないメシを」

 

皆さん、定食をもっと食べ続けたくはありませんか。温かいメシを食べたくはありませんか。もし良かったら、近所の定食屋を覗いてみて下さい。その一食で、定食を食べられる日が一日でも伸びるかもしれません。