先日、居酒屋のカウンターで飲んでいたところ、後ろのテーブルからこんな声が聞こえてきました。
おばちゃん「6人分全員お冷でお願いします」
店員「……全員お冷ですか?」
おばちゃん「ええ、お水でけっこうです」
え? けっこうとかそういう問題なのかとギョッとしていたところ、グループ内の若手の女性がドリンクメニューを見始めました。
「さすがにソフトドリンクを注文するのかな」と思いきや、それを見た同じグループのおばさんが「あんたは気を使わなくていいの!私たちは料理を食べに来たんだから!」と声を上げ、結局、コースのご飯料理だけを食べて帰ってしまいました。
居酒屋の店長に「さっきの人たち、すごいですね……」と言うと、「最近多いんですよ。特に若いお客さんでかなり増えましたね。数十人のグループでお店一つ貸し切って、全員がコース・ドリンク無しでお冷だけと言われたときは、さすがにワンドリンクはないと無理ですと断りましたけどね(笑)」という話も。
さらに話を聞けば、「最近は焼き鳥屋に行って、焼き鳥とご飯を注文してそのまま帰る子たちも増えてきたらしいんです。居酒屋の料理は原価率が高いから、そんなことをされる人が増えたらウチらはやっていけません。賃貸の居酒屋は全部ダメになります。一応、ドリンクのオーダーも聞いてみるんですが、ああいう人たちは全く気にしないですね」とのこと。
こういった話を聞くのは、1、2件だけじゃありません。いくつかのお店に行ってみましたが、たいがいのお店でそういった話を聞くことができました。
「酒を飲めない人に酒を飲ませない」という流れが出てきたこと自体は素晴らしい事だと思います。ただ、それがそのまま「酒を飲まない人は水」という流れになってきてしまっており、それが居酒屋の経営を圧迫しうるようです。
ときどき「ドリンクのオーダーが無いぐらいで営業ができなくなるのなら、それは店側の努力不足だ」という声を聞くことがありますが、それは違うのではないかなと思います。
少し話はそれますが、私は店の雰囲気や店の良さは、良い客があってこそだと考えています。
最近、食べログのレビューなどを見ているとホスピタリティ、ホスピタリティと声高に叫ぶ方たちがいます。ですが、そういった方に実際に会ってみれば、たいがいは本人側の態度が悪いか、そんなことをしたら嫌われて当たり前だろうという接し方をする傾向にあります。
店のホスピタリティに関わらず、店の雰囲気、店の在り方、店の役割というものは客も一緒になって作るものです。
カフェの役割、レストランの役割、居酒屋の役割etc……。「自分の目的に合うようにお店側を強制させる」のではなく、「自分の目的に合った役割のお店を選ぶ」という使い方にはどうしても変えられないものでしょうか。
その役割まで破壊して、お店側に“どんなお客さんにもマッチングしたマルチな営業”を求めるようになってしまったら、そこに残るのは大手資本のチェーン店か、ファミレスのような似たり寄ったりのお店ばかりになってしまいます。
「金を払ってまでお店側に気を使いたくない」という人もいらっしゃいますが、自分がお金を払っているのと同時に、店側からも料理やドリンクを“作ってもらっている”ことを忘れたくないものです。