「『日雇い派遣』で食いつなぐ34歳男性の壮絶人生」のウソ!日雇いは禁止だけど日々紹介は禁止されてませんよ!
半年ほどまえ、東洋経済新聞が『「日雇い派遣」で食い繋ぐ34歳男性の壮絶半生』というタイトルの記事を公開しました。
今や、日雇いとネットで調べると、上位に来るぐらいコメントも寄せられた記事。ただ、この中身を読んでいて、日雇いアルバイターとしては「ん?」と首をかしげることもあったので、いくつかご紹介します。
この1年、日雇派遣などで食いつないでいるというユウスケさん(34歳、仮名)が、スマートフォンのアプリを開いて見せてくれた。宅配便ドライバーの助手、倉庫内での仕分け作業、居酒屋――。そこには、1日限定のさまざまな求人情報が掲載されていた。
あり得ない――。現在、日雇派遣は原則、禁止されているはずだ。リーマンショックが起きた際、不安定な日々雇用が社会問題となったことから、2012年に労働者派遣法が改正され、派遣会社との契約が31日以上、年収500万円以上などの諸条件をクリアするか、ソフトウエア開発といった専門性の高い業務でなければ、日雇派遣は認められなくなった。
私がそう告げると、ユウスケさんは「ええー! そうなんですか。じゃあ、この仕事、全部、違法なんですか」と驚きの表情を見せた。
まず、ポイントはここ。
まるで「派遣会社から1日限定の求人として送られてくる仕事」は全部日雇い派遣であり、禁止されているかのように書いています。というか、書き方に明らかに悪意があるので、少し訂正します。
日雇い派遣は禁止されているが、日々紹介は違法ではない
まず、重要なのは日雇い派遣は確かに「原則」禁止されていますが、日々紹介は禁止されていないということです。
日雇いをやったことがない方は、日雇いと日々紹介の違いがなかなか分からないと思うので、ここにご紹介します。特に「日々紹介」は知らない方も多いかもしれません。
簡単なポイントだけ図にしてみました。
これを見てもわかるように、
日雇い派遣は「派遣元企業に登録し、そこで雇用されて仕事も紹介されたうえで、派遣先で仕事をして、お給料は派遣元企業からもらう」お仕事です。こちらは原則禁止されています。
ですが、日々紹介は「仕事を紹介する企業に登録こそしますが、仕事紹介はあくまで"紹介"だけで、紹介された先の企業で雇用されて給料も振り込んでもらう単発アルバイト」です。こちらは"仕事を紹介するだけ"ですので、禁止されていません。
記事を読んでみると、東洋経済の日雇いアルバイターの人もまさに日々紹介だった可能性があります。
一方でよく見ると雇用形態は「アルバイト」となっており、「派遣」とは書かれていない。
日々紹介にももちろん問題はある
ただし、日々紹介のお仕事にももちろん問題はあります。
たとえば、メールやアプリで仕事を紹介されて、その仕事に登録されたはいいものの、当日になって雇用先の職場から「雇用されずに」仕事がなくなってしまうなどです。
これは日雇い派遣ではありえませんが、日々紹介ならありえます。仕事を紹介する企業にはなんの決定権もなく、ただ「企業と日雇いアルバイターをマッチングする」だけだからです。
日雇い派遣も日々紹介もやっている有名な企業である「フルキャスト」の日々紹介に関する注意事項にもこう書かれています。
前日までに紹介先を決定します。日々紹介では紹介先の決定をメールでお知らせしますが、求職者(皆さま)を就業先に紹介することが決定したことをお知らせするものであり、紹介先企業が採用を決定したことをお知らせするものではありません。
ときどき、日々紹介の会社に対するレビューコメントなどを見ると「仕事に応募して登録されたのに、当日になって仕事がキャンセルされた!」と怒っているコメントがあります。日雇い派遣ではなく、日々紹介ならそういうことがありえます。
ほかにも、仕事上のトラブルが起きたときに、仕事を紹介した企業は責任を取ってくれないので、自分でアルバイト先の企業と交渉しないといけないなどの問題もあります。これも日雇い"派遣"ならありえないことです。
日々紹介は、日雇い派遣が禁止されてから出てきたスタイルです。
私は日雇い派遣も日々紹介の単発アルバイトもどちらもやってきた経験がありますが、個人的には日雇い派遣よりも日々紹介のほうがいろいろ問題が多いかなとは思います。
ただ、東洋経済新聞の「いかにも日雇い派遣が悪い!」ような書き方をしている文章は、日雇いに助けられた人間としては、少し気になったのでご紹介しました。
確かに、日雇い派遣は問題がいっぱいだけど……
確かに、日雇い派遣や日々紹介は問題がいっぱいです。貧困にだってつながりやすいでしょうし、雇用も不安定でしょう。
ただ、昔の私のようにうまく付き合っていけば、「苦しい時に食いつないだり」 「明日はどんな仕事に就けるかなと意外と楽しく働けたり」という付き合い方だってできます。※レアケースかもしれません
それに、「日雇いの派遣なりアルバイトなりで食いつながないと生きていけない」人だっています。
それに対して、この記者の書き方はあんまりにも否定的すぎるというか、一方的なものの見方だと感じました。
ほかにも、「男女雇用機会均等法に違反した求人ばかり」といったような、日雇いアルバイターとして働いたことのある人間からしたら「本当に?」と首をかしげることもいくつかあったのも気になります。
「あまりにも極端な人だけを例にあげて、一部分だけを強調して書いているんじゃないか?」と思うところがあったので、私なりに日雇いへ思うところを書いてみました。
*1:ただし、「しかし、募集企業の欄に記載されているのは、派遣会社である。」とも書いてあるので、本当に日々紹介だったかは不明です。実際の求人情報をこの目で見ないと判断がつきませんが、なんにせよ「雇用形態をわざわざ違法になるような表示」をする企業はそう多くないと思います